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啓「うるっせーなーーーもう分かったっつってんだろーが‼」 先生「いや、本当に大したものだよ、あの甲賀中を負かすなんて」 啓「はい、あざっす・・・練習行くんで」 瞬「遅いっしょ啓」 啓「悪い悪い」 顧問「昨日の試合は見事だった、実にな、しかし次は県大会・・・よって出場選手である・・・」 顧問「徳島、佐々木、城田・・・・・・・・の10名は市内競技場で松山君と合流し、向こうの顧問と練習だ」 響「よう、啓、瞬、秀」 秀也「よぉ‼」 瞬「チョリーーッス♪」 啓「うっす‼」 この練習を一カ月続けた なぜか個人練習をさせてもらえずひたすら連携を練習させられた 秀也「県大会一回戦は都心エリアの強豪宮子中だ、MFの二人、FWの一人のトリオが有名だ」 瞬「これから戦うところですよね」 秀也「そう」 響「確か・・・武速技三トリオ」 試合開始‼ 響「行け‼瞬、啓‼」 啓「了解‼」 テクニカル・パス‼ 瞬「来た来た♪」 スピード・パス‼ 啓「返すぞ‼上がれ‼」 テクニカル・パス‼ 瞬「行くぞ‼」 超瞬速ボレー弾‼ GK「キャッチ・・・届かない‼」 GOAL‼ 武「俺が武速技トリオの一角「技の向井武」だ‼」 技パス‼ 桐吾「俺はトリオの一角「速の棚田桐吾」だ‼」 速ドリブル‼ 章介「僕はトリオの一角「武の佐藤章介」だ‼」 章介「武」 桐吾「速」 武「技」 トリオ・トルネード・シュート‼‼ 秀也「真っ直ぐだ・・・ただ・・・これが止まるのか?・・・響‼力を貸せ‼」 響「分かった」 ボイス・ブロック‼ アース・捕‼ 秀也「すげえ・・・手袋が破れちまった・・・」 章介「ち・・・止まっちまったか」
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第三話『戦慄を吹き飛ばせ!勇気の風』 澄み渡る青空が広がっている。それだけを見るとただただ平和な空間のようで。 しかし地上に目をやれば、荒れ果てた大地と破壊された街の数々が見える。 ギリシャの街並みも、かつての栄華を失ったかのように静まり返っている。 それというのも、この国にもレイルガルズの軍勢が侵攻しているからだ。 その軍勢が集う拠点では、一番奥に暗い紫色の長い髪を流した女性の姿が。 彼女にレイルガルズの兵士が駆け寄ってくる。 「アレイシー様!先ほど、戦乙女がこの国に入国したとの情報が!」 「そう…わかったわ、グシルを放ち、街を襲わせなさい」 「はっ!」 アレイシーという女の指示で、兵士たちはすぐに行動に移した。 「噂が本当なら、あの小娘も…面白くなってきたわぁ…!」 怪しげに笑みを浮かべながら、アレイシーは遠くの街を見つめていた。 ギリシャの首都アテネから離れた場所に位置するナフプリオン。 海が広がり、かつては観光地として賑わっていたが、海はレイルガルズに汚され、 その色は紫色へとおぞましく変色していた。 そしてそんな海から、レイルガルズが放った怪物どもが現れるのだ。 ぶくぶくと泡立ちながら、海面が盛り上がったと思うと、そこから 数匹のトカゲのような姿をした小型怪獣グシルが街を襲い始めた。 逃げ惑う人々と、それを容赦なく襲っていくトカゲたち。 「待ちなさい!」 だが、そこに唐突に叫び声が響き渡ると、街の人々と怪獣たちの間に三人の人影が舞い降りる。 きらきらとした光を纏いながら、ビキニアーマーの戦乙女がその姿を現したのだ。 「あれが、噂の戦乙女か!」 「やったぁ!これで俺たちも助かるぞ!」 「みんな早く逃げて!」 メルナに促され、住民は素早く避難し始める。三人は武器を構えて怪獣たちの前に立ち塞がる。 「ダイヤモンドブリザード!!」 フィリーの放った魔法の吹雪で怪獣たちはみるみるうちに凍り付いていく。 「とどめだよ!サイクロンウェイブ!!」 続いて美琴が竜巻を起こし、凍り付いた怪物どもを吹き飛ばす。 猛烈な勢いで吹き飛ばされたグシルたちは氷が砕けるのと同時に自身も砕け散った。 「よし!…おっと!?」 ガッツポーズを取ってる美琴に向かってドロドロとした液体が飛んでくる。 付着した箇所はシュウシュウと音を立てながら溶けていた。素早く怪獣は逃げ出す。 「くっ、まだ生き残りがいたなんて!ボクをなめないでよね!」 「美琴!深追いはしてはいけないわ!」 「フィリー!美琴を追いかけましょう!」 街の外れまで来ると、ようやく怪物トカゲは動きを止め、美琴に向き直る。 「観念したようだねぇ…!いっけぇ!ウインドカッター!!」 美琴の剣から風の刃が放たれ、それはグシルを切り裂いた! 「よっし!これでこの辺ももう大丈夫だね」 「お見事!…うふふ!」 喜ぶ美琴にどこからか声が掛けられる。それにハッとなり辺りを見回す。 だが、誰もいない。 「誰だ!?ボクを呼ぶのは」 「ふふふ…やっぱりぃ、噂の戦乙女にあなたがいたのねぇ…」 唐突に影が現れ、次第にはっきりとその姿を見せ始めていく。 「織瀬美琴ちゃん……あんなに可愛がってあげたのに忘れちゃったのかしら?」 「ま、まさか……!?」 はっきりしていく姿を見て、言動を聞き、美琴は後ずさりしていく。 そこに、メルナとフィリーが駆けつけた。 「美琴!大丈夫!?」 「あなたは何者ですか!?」 フィリーの問いかけに、女は答える。 「私の名はアレイシー…レイルガルズの戦士の一人。ふふ、お久しぶりねぇ、美琴ちゃん?」 名乗りをあげ、姿も完全に見えるようになると、美琴はがくがくと震え始める。 「…あ、ああ……」 「レイルガルズの戦士…フィリー、美琴、だったらすぐにでも倒しましょう!」 「ええ、メルナ!」 やる気満々のメルナとフィリーであったが、美琴だけは震えが治まらずいる。 「み、美琴?どうしたの?」 「い、嫌だ…!あいつが相手なんて…う、うわぁぁぁぁ!!」 「美琴!?」 叫び声を上げながら敵に背を向け、逃げだそうとする美琴。 「あらぁ、逃げちゃダメよ?」 「ひっ…!」 だが、美琴より速く、アレイシーは彼女の進路上に回り立ち塞がる。 「また、いっぱい可愛がってア・ゲ・ル…!」 「や、やだぁ…助けて……!」 顎を掴まれ、視線を合わせられると、美琴の全身から力が抜け、目が虚ろになっていく。 「あ、あ……」 「くっ、美琴を返して!!」 メルナが斧を持ち、突進するも、アレイシーには避けられてしまう。 間髪入れずにもう一度振るうが、それは蹴りの一打で跳ね返される。 「くっ!」 「美琴ちゃんを返してほしければ、パルテノン神殿までおいでなさい。それじゃあね」 そう言い残すとアレイシーは美琴を抱えたまま、煙のように消え去った。 ―――パルテノン神殿。そこの中心で美琴は鎖で縛られ、眠っている。 「美琴ちゃん、そろそろ起きないとダメよ?」 美琴の頬をぺしっと軽く叩くアレイシー。目覚め、少しずつ意識がはっきりしてくる。 「うっ…ここは……あ、アレイシー…!くぅ…」 「無理よ、その鎖は戦乙女の力でも、簡単には破れないわ。それよりも懐かしいわねぇ。 美琴ちゃん、あなたを捕まえた時のことが」 美琴と口づけしそうな距離に顔を近づけ、じっと見つめるアレイシー。 「日本に攻め込んだ時、あなたのママとパパを殺して、あなたの怒った時の顔、 そして私には敵わないと知った時の絶望感を帯びた表情……すっごく素敵だったわぁ」 身をよじらせ、無駄だと知りつつも脱出しようとする美琴。 その時、ピシッ!と何かが振るわれた音が響いた、その音を聞くと美琴は 再び震えが止まらなくなる。 「捕まえた後のこと覚えてる?こうやって何度も何度も躾けてあげたこと?」 「い、いやぁぁ…!!やめて、それだけは……!」 「ふふ、戦乙女になっても、やっぱり弱虫美琴ちゃんねぇ!!」 「うあっ!ああっ!!」 鞭で打たれ、その度に小さな悲鳴を上げていく美琴。 「ダメじゃない、玩具が勝手に逃げ出しちゃあ!それをちゃんと教えてあげなきゃ…ね!!」 「うあぁ!や、やめて…!お願いだから…」 「お仕置きが終わったら許してあげる…!はあっ!」 バシンバシンと鞭で叩かれる美琴。その音は鳴り止まない。 だが、音は唐突に鳴り止んだ。岩がアレイシーに向かって飛んできたからだ。 それは軽く避けるアレイシー。苦笑いを浮かべながら、飛んできた方角を見やる。 「あらぁ、もう来たの?」 「美琴を返して!」 叫ぶメルナに怪しく微笑みを浮かべながら、ゆっくりと後退するアレイシー。 「返してほしいなら…この子を倒してごらんなさい!」 すると白と黄色が混じった色の肌にまだら模様が施された二本角の怪獣が現れた。 鳴き声を上げながら、パルテノン神殿を一撃で破壊してしまう。 「くっ、フィリー!」 「ええ、速く片付けて美琴を救いましょう、メルナ!」 二人は武器を構え、突撃していく。怪獣の方は尻尾を鞭のように振るい、 叩き落とそうとするが、素早く回避していく。 「そんなものにあたしたちはやられないわ!」 「甘いわねぇ…ボルトキング!あれで懲らしめておやり!」 ボルトキングと呼ばれた怪獣は尻尾を上空に固定すると、そこから無数に雷を落としていく。 「きゃああ!!くぅぅ!」 「ぐあああぁぁ!!」 無数の稲妻を浴びせられ、二人は倒れそうになるも、なんとか武器を杖代わりにして立ち上がる。 「ロックアロー!!」 メルナは巨石を召還し、それを念力で放つ。しかし、ボルトキングが口から放った 光線で相殺されてしまう。 そして再び雷が無数に降り注ぎ、メルナとフィリーを苦しめる。 「メルナ!フィリー!」 「無駄だって言ってるでしょ…!?」 鎖からは脱出不可能と思われていたが、美琴は息を切らせながらも鎖から抜け出し アレイシーの前に立ち上がっていた。 「どうやって抜け出したの?引きちぎってはいないようだし…」 「アレイシー…あんたの鞭に比べたら間接外しなんて屁でもないよ…」 戦乙女の力で多少回復したとはいえ、さすがにダメージが酷い美琴。 だが、それでも剣を構え、メルナとフィリーの下に駆け寄る。 「二人とも、大丈夫?」 「う、うん…美琴こそ、大丈夫なの?」 美琴は何も答えずに、剣に気を纏わせる。そして目にも留まらぬ速さでボルトキングに 接近し、袈裟懸けに斬り裂いた!その初動の一撃で苦しみ、動きを止める怪獣。 「はぁぁぁ!!せい!やぁぁぁ!!」 間髪いれず斬撃を無数に繰り出し、ボルトキングの身体をバラバラにし 「風龍連翔撃!!」 最後に技の名を叫びながら竜巻を起こし、肉片を粉砕した。 「へえ、なかなかやるじゃない」 自分の怪獣が倒されたというのに、特に思うことはなさそうなアレイシー。 「アレイシー…ここで倒す……」 「やめときなさい。あなた、震えが治まっていないわよ?」 「くっ…」 アレイシーの言うとおり、美琴の身体は彼女の姿を見ただけで震えが走り治まらない。 「うわあぁぁ!!」 それでも闇雲にアレイシーに斬りかかる。だが、勢いよく振りかざした剣は片手で 掴まれ、そのまま投げ飛ばされてしまう。 「うあっ!くっ…」 「まあ、今回は美琴ちゃんのこと見逃してあげる。だけど、今度は必ず あなたをもう一度、私の玩具にしてあげる…楽しみにしててね、じゃあねぇ♪」 「待ちなさい!!」 フィリーが追おうとする間もなく、アレイシーは消え失せた。 アレイシーがいなくなると、美琴は脱力し、その場にへたり込んだ。 「はぁ…はぁ……ダメだ、ボク…」 もう姿は見えないというのに、震えは未だに治まらない。 「美琴…」 彼女のことをメルナは心配そうに見つめていた。 次回予告 「フィリーです。美琴のことは心配だけど、私たちは先に進まなければなりません。 ロシアに向かった私たちに、レイルガルズの新たな手先が!メルナと美琴が危ない! 次回は『極寒の戦場!戦乙女の底力』二人は、私が必ず助け出します!」 .
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木漏れ日が差し込む山道に二つの人影があった。大きさから見てまだ子供と言える二人は無邪気な声を上げて走り回る。 ???『おれー! こっちこっちー!!』 長い黒髪が風に遊ばれるのを気にもせず目の前の少女が元気良く声を張り上げた。 艶やかに光る長髪とは裏腹に肌は白く品の良い扶桑人形のような印象を見る者に与える彼女は満面の笑みを浮かべて、手を振ってくる。 おれ『危ないぞぉ! 戻って来い! ここには人を襲う鷹がいるみたいだし』 ???『たかさん? って俺ぇ!! うしろうしろ!!!!』 おれ『……うしろ?』 鷹『少年! その尻ぃ! もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』 ドシュッ!! おれ『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 断末魔にも似た絶叫を上げ白目を剥いて少年は倒れた。 糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた幼馴染に少女が血相変えて駆け寄った時には既に彼は不気味なまでに痙攣を繰り返していた。 犬のように舌を出し涎と泡を口膣から垂れ流す姿は見る者に恐怖すら与える惨たらしい姿を見せ付けられ、幼くも聡明であった彼女は幼馴染がいかに危険な状況に陥ったのか理解してしまった。 ???『俺……? うそだよね……? やだよぉ……こんなのやだよぅ! 俺ぇぇぇぇぇ!!!』 一際激しく震えると少年はぴくりとも動かなくなり、少女の哀しみに満ちた叫び声が虚しく山中で木霊した。 俺「うぉぉぉぉ!?」 ベッドから上半身を跳ね起こすと全身にびっしりと浮かんだ汗が、開放されたままの窓から吹き込んでくる風に冷やされ不気味な寒気を生んだ。 あの日の出来事は忘れもしない。 幼馴染と一緒に山で遊んでいる最中に突然尻に鋭く、重い何かが凄まじい勢いで突き刺さったのだ。 その時に漏らさなかった当時の自分を褒めてやりたいと時折思う。 結局まだ幼かった当時の自分はその強烈な痛みに耐え切れず泡を吹いて失神してしまい、次に目を覚ました時には病院のベッドに横たわっていた。 あの一件が使い魔とのファーストコンタクトでありワーストコンタクトであったことを幼少時の自分が知るのはだいぶ先の話になる。 主治医『おはよう俺君! 切れ痔で済んでよかったね!!!』 そして、これが初めて顔を会わせる年老いた主治医からの第一声である。 泡を吹いて失神までしたというのに本当に切れ痔で済んだのかと幼いながらも食って掛かったのは今でも覚えている。 急降下してきた鷹の嘴が突き刺さったのだ。 切れ痔で済んだと言われて、はいそうですか、と納得できるわけがなかった。 俺「思い出しただけで痛くなってきた。おい! 起きてるだろう!」 鷹『何だ一体。せっかく初めて出会った時のことを夢に見ていたと言うのに起こすとは随分と無粋な』 俺「お前も同じ夢を見ているとは……忌々しい」 鷹『初めての出会いに何てことを! そうか……いや失敬。もう少し優しくすればよかったか。思えば君はまだ幼かった。この鋭い嘴を君の青い蕾に突き立てるには些か力が強すぎたな』 俺「強すぎたじゃないだろう! あれはもう刺殺の勢いだ!!! というかだな! 使い魔の契約はタッチだろう!? なんで突き刺した!?」 鷹『すまないと思っている。初めてにしては乱暴にし過ぎた。衝動を抑えることの出来なかった私を許してくれ』 俺「反省する感情がまるで込められていない謝罪を受けたのは初めてだよ」 ビキビキ 鷹『安心したまえ。女性で言う処女膜の部分には到達していないんだ』 俺「何が言いたい」 鷹『あの時偶然にも使い魔の契約が発動してしまった所為で嘴の根元までいけてないんだ。だから君の純潔はまだ保たれている』 俺「知るか! 大体尻の穴の純潔ってなんだよ!? それにもうあんな痛い思いはごめんだからな!!」 鷹『その痛みすら快楽に変わることが何故分からん!!!』 俺「鷹が言うな!!!」 堪忍袋の尾が切れる寸前ネウロイの出現を知らせる警報が基地内に響き渡り、弾かれたように起きた俺が着替えを済ませると部屋を飛び出してブリーフィングルームへと走っていった。 ――― 整備兵A「今日は随分と早いご帰還じゃねぇか」 戦闘空域からの帰還を果たした俺を出迎えたのは、この基地へ配属された時からの付き合いの整備兵Aだった。 油が染み付いた作業服を身に纏い、鼻頭と頬が所々煤けた笑顔を浮かべ、同じように油で汚れた手袋を外した掌を掲げてみせる。 俺「よっ」 ストライカーを脱いだ俺が彼の掌に自分のを打ち付けながら破顔した。 子供がみたら笑い出す無邪気な笑顔は自然と人を惹きつける不思議な魅力を漂わせている。 事実、彼は配属されてから今日に至るまで様々な人間と知り合い交友関係を広げ、深めていった。 ある時は門を見張る衛兵にこっそりと定子が作った肉じゃがを差し入れに持っていったり、時には整備兵や清掃員の人間を集めて密かに酒盛りをしたりなどなど。 今では基地に所属する殆どの人間が彼と良き関係を築いていた。 俺「優秀な戦闘指揮をしてくれる人がいるからな。下っ端の俺は動きやすくてたまらんよ」 茶目っ気たっぷりに言い放ち、少し離れたところで同じようにストライカーを脱いでいるポクルイーシキンに向かってウインクしてみせる。 それに気付いた彼女は照れたように、はにかみ軽い会釈で返すとクルピンスキー、ニパ、管野と共に格納庫を後にした。彼女の額に青筋が浮かんでいたように見えた。 俺「またストライカー壊れたのか?」 整備兵「俺らとしては大歓迎さ。仕事が増えれば給料も増える」 俺「そういうものなのか?」 整備兵「俺たちにとっちゃ壊れたものを直すのは仕事なんだ。ストライカーの破損を気にして思う存分戦えないなんて洒落にならないだろう? 壊れたんなら俺たちで直すから遠慮なく戦って欲しいね」 その言葉は彼だけのものではない。ここペテルブルク基地に所属する全ての整備兵の言葉であった。 集められたのは全員自らの腕に自信と誇りを持つ者達ばかりであり、彼らから言わせればストライカーくらいすぐ直してみせるとのことだ。 俺「伝えておくよ」 整備兵A「それにしてもウィッチと一緒に空へ上がれるなんて幸せ者だねぇ」 俺「羨ましいか?」 整備兵A「いんや。俺ぁお前らの土台で充分だ。臆病者の俺には鉄火場に出る勇気なんてないさ」 整備兵Aは再び手袋を嵌め、 整備兵A「俺たちには空を飛ぶ力はねぇ。でも空を飛ぶお前たちを支えてやることは出来る。出来ないことを嘆く暇があるなら出来ることを精一杯やるさ」 これが自分の仕事なのだ、といった口調で呟き袖を捲くし上げる。 俺「俺たちもお前らがいてくれるから安心して戦えるんだよ。これからも期待してるぜ?」 整備兵A「任されよ」 整備班長「おいA! いつまで駄弁ってやがる! 新婚だからって浮かれてるんじゃねぇぞ!!!」 そんなやり取りをしていると整備班長が声を荒げて怒鳴った。 格納庫の一番隅で車両の整備を担当しているというのに入り口近くで談笑している自分たちの耳にもはっきり届く大音響。 巨漢の傍で仕事をしていた整備兵たちは突然の爆音に驚き、余りにも大きい怒号に反射的に耳を塞ぎ、怒号の原因となるこちらへ恨めしい目線を向けてくる。 それでも手は休めないのだから流石はプロといったところだろうか。 整備兵A「分かってますよ!!!」 俺「新婚か・・・・・・子供はいつ生まれるんだっけか?」 整備兵A「今月中には、な」 基地から少し離れた街でパン屋を営む彼の妻は実に気立てが良かった。 会ったばかりの自分に対して差し入れにと焼きたてのパンを振舞ってくれるなど良く出来た女性だと思う。 新たな生命を宿す膨らんだ腹部を愛おしそうに撫でる姿は聖母といっても何ら過言ではなく彼自身、自分にはもったいないと頻繁に口にするほどである。 俺「ならしっかり稼いで女房と子供養わないとな。頑張れよぉ、お父さん」 整備兵A「うるへー。言われるまでもねー。お前もさっさと仕事いけよー」 俺「へいへい。じゃあな」 整備兵たちの視線がいよいよもって鋭くなってきた。そろそろ頃合だろうと思い、ゆっくりとその場を去ろうとすると、 整備兵A「俺!!」 俺「おっとぉ!!」 投げて渡された紙包みを受け止める。 整備兵A「やるよ! 俺の愛する女房が焼いた世界で一番美味いパンだ! 味わって食わないと許さねぇからな!!!」 俺「サンキュ!!!」 彼なりの友情を胸元にしまいこみ今度こそ格納庫を後にした。 機械の駆動音や巨漢の指示が飛び交う喧騒を耳で楽しみながら。 ――― 戦闘が終了して基地へと帰還、そしてこの談話室に連行され、有無を言わさぬ圧力を前に成す術も無く正座をさせられてから一体どれだけの時間が経ったのだろうか。 時計に目線を移してみれば、まだ三十分も経っていない事実に溜息を吐いた。 ポクルイーシキン「クルピンスキー中尉?」 クルピンスキー「あぁ、聞いてるよ。サーシャ」 実際は殆ど聞き流しているのだが、それを馬鹿正直に告げれば正座の時間が倍増するのは目に見えているので、生返事を返す。 そろそろ足が痺れてきた。 クルピンスキー「(これは・・・・・・そろそろ限界、かな?)」 ニパ「そんなこと言ったって壊れちゃうものは壊れちゃうんだし」 管野「そうだそうだー」 両隣で自分と同じように正座をするカタヤイネンと管野が表情を曇らせて不満を口にしており、このままだと空気が険悪な方向へと流れていってしまう。 ここ最近、ストライカー破損について彼女は敏感になり過ぎている傾向があるのは気のせいだろうか。 俺「ここ掃除したいんだけど……まだお説教続いてる?」 よれよれの清掃服に身を包み、箒と塵取りを持った救世主が現れた。それまでお説教ムード一色であった空気が彼の登場によって幾らか薄まったのをクルピンスキーは見逃さなかった。 素早く立ち上がると、カタヤイネンと管野を引っ張り出口へと向かって走り出し、二人もまた彼女の意図を察したのか足を動かす。 クルピンスキー「ごめん俺! この埋め合わせは必ずするから!」 脇を猛スピードで通り抜けて廊下へと飛び出し、一目散に駆け去っていく三人に目を丸くする俺と、 ポクルイーシキン「こら! 待ちなさぁい!!」 可愛らしく頬を膨らませるポクルイーシキンだけが談話室に残されることとなった。 長時間の正座を強いられていたのが嘘のような快走に流石は現役軍人だな、と胸中で感嘆の吐息を吐き、矛先を失った怒りを持て余すポクルイーシキンへと視線を向ける。 ポクルイーシキン「変なところを見せてしまって、すみません」 気恥ずかしさを顔に出したポクルイーシキンが若干頬を染めて視線を泳がせた。 俺「気にしないけど。あんまカリカリしてたってしょうがないと思うけどね」 ポクルイーシキン「はい・・・・・・」 俺「考えを改めろなんて言わないさ。それでも一度溜まった息は抜いちゃっても良いんじゃないか? じゃないとサーシャが倒れちゃうよ」 ポクルイーシキン「そんなに思い詰めた表情をしていましたか?」 新参者の目から見ても分かる程度に、と続けて笑いかける。いつもと変わらない人懐っこい笑顔を見せられポクルイーシキンの頬が自然と緩んでいった。それから整備兵Aから言付かった伝言を彼女に告げる。 ストライカーの整備や修理なら自分たちが受け持つから、空を飛び、陸を駆るウィッチは迷うことなく自分の戦いに専念して欲しい、と。 俺「サーシャがどれだけ苦労してきたのか知っている身としては、やっぱり肩の荷は降ろして欲しいかな」 満足に装備が揃わぬ中での撤退戦。 いかに当時が困難な状況であったかは想像に容易い。 ポクルイーシキン「少し……考えさせてください」 談話室を後にする彼女のいつもよりも小さく見える背中を見送りながら俺の黒瞳はどこか不安の色を湛えていた。 ――― 俺「おー! 絶景! 絶景!」 あれから仕事を終え、仲の良い衛兵Aと勝負を繰り返し懐が温まった――それでも大人気無かったので五割は返してやった―――俺は瞳を輝かせて夜空の星々を仰ぎ見ていた。吐き出す呼気が白く、頬が痛いくらいに冷える中、ペテルブルクの厳しい寒さなど物ともせずに浮かんだ薄い笑みは暗闇に満ちた夜天に魅入っていた。 ポクルイーシキン「こんばんは。俺さん」 足音と共に聞き覚えのある声が背後から飛んで来たので、振り向いて見るといつも身に付けている軍服の上から防寒用のジャケットを羽織り、両手にマグカップを持ったポクルイーシキンが柔らかい笑顔を浮かべて、こちらへと歩み寄ってきた。 相手を隈なく包み込む優しい微笑みに俺もまた釣られるように頬を綻ばせる。 俺「どうしたんだ?」 ポクルイーシキン「そういう俺さんは?」 俺「寝付けないから星でも見に」 ポクルイーシキン「なら、私もです」 ならって何さ、と口元に相変わらずの薄い笑みを滲ませながら差し出されたマグカップを受け取って口元へと運ぶ。 白い湯気を放つ熱いココアを胃に流し込んだ俺の顔が満足げな表情を形作った。 ポクルイーシキン「口元が汚れちゃってますよ?」 隣に座りこみ、ポケットから取り出したハンカチで俺の口元に出来た焦げ茶の髭を拭っていく彼女の笑顔は楽しそうに見える。 まるで手が焼ける弟の面倒を見る姉のような笑顔に内心気落ちしそうになった。 自分の方が年上だというのに、この基地は年不相応なまでに大人びた少女が多すぎると感じるのは自分だけだろうか。これでは自分の立つ瀬が無いではないかと苦笑いを漏らす。 俺「空気が澄んでるから星もよく見えるなぁ」 マグカップを脇に置き、そのまま寝転がる俺の眼差しの向こう。黒の天蓋にばらまかれた無量の星彩を眺めながらポクルイーシキンが口を開いた。 ポクルイーシキン「私・・・・・・もう少し心のゆとりをもってみようと思います」 一言ずつ紡ぎだすポクルイーシキンの言葉に耳を傾け、頷く。 俺「・・・・・・・分かった」 返したのはたった一言だったが、背中を後押しするようなニュアンスが含まれていた。 ポクルイーシキン「でも! だからってストライカーを粗末に扱っては駄目ですよ?」 俺「分かってるよ」 冗談めいた笑みを口元に浮かべマグカップを差し出す。月の光に照らされるポクルイーシキンの白い頬に薄紅が灯った。 ポクルイーシキン「俺さん。今日はありがとうございました」 カツン! 小気味良い音が小さく月明かりの下に響いた。 サーシャ回終了。 サーシャ回なのにサーシャが全然出てこない気がする。
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彼女を一目見て女であると理解できたのは俺が男だったからだ。 ネグレクトされたことで卑屈に育った俺に向けられてきた視線はすべて悪意と敵意に見ていたが、 幸いにして何も知らない「人形」であった彼女は、俺に対して偏見のない視線を向けた。 それまで直接誰かと視線を交わしたことのなかった俺には彼女の視線はとても痛く、どうすることもできずたじろいだ。 しかし、同時に俺の存在を等身大ですべて認め、そして俺を許してくれた。彼女は俺の人生に何も批判をしなかった。 許されることを知らなかった俺は、初対面の彼女が俺のすべてを許し、そして必要としてくれたことに、言いようのない喜びを覚えた。 そして、その喜びを「まだ知らない」にも関わらず「懐かしい」喜びだと思い違ってしまった。 その懐かしさは……母の愛情だった。 母親は子どもに生きることを許した。母に許されて子どもは生まれるのである。 母が自らの命を削り、子どもに分け与えることを許し、子どもは生きる。 許されない子どもは、生まれてこないのである。 俺はそれまで許されたことはなかった。少なくとも、許されたことが記憶になかった。 だからこそ、俺を初めて許した彼女は俺をこの世に産み落としてくれた母であった。 彼女に認められて俺は初めてこの世の中に自分という存在があるということを自覚できた。 15年も眠り続けていた胎児は、彼女の許しを得てようやくこの世に生まれてきたのである。 この世の中はすべて女性によって生み出されている。 イエスでさえも、マリアに許されて生まれてきたのだ。マリアが神の母になることができたのは彼女がイエスを許したからだ。 母であるマリアが居たからこそ世界に神が生まれた。 だから、俺を産み落とした彼女を女性と信じて俺は疑うことはなかったのである。 しかし、この思いこみの実態は、子どもの甘えでしかなかった。 未だかつて甘えるということを知らなかった俺は、甘えるという行為についてあまりに無知であった。 甘えることをよく知らないが為に、俺は他人に甘えることは許されない行為だと信じていた。 甘えることが無条件に許される相手……それは母親だ。なぜなら母親は許す存在だと信じていたから。 本当は初めて自分を自分であると認めてくれた彼女に甘えたかったのかもしれない。 しかし、甘えを知らない俺は甘えるたいことを自覚できなかった。 甘えを知らない子ども……その言葉をどう思うだろうか。 子どもは甘えを抱えて生きている。子どもは甘えを知っているのである。 それは俺も例外ではなかった。自覚できなくとも甘えを人並みに抱えていた。 だから、彼女に甘えるために俺は彼女を母であると信仰した。 彼女を母であると信仰宣言した年齢が16歳であるということは、あとから考えると偶然ではないように思えてくる。 16歳となれば性についても十分に理解がなされる年齢である。中学生のそれとは違った生命への尊厳を理解できる。 しかし一方では子どもであり性にたいしていたずらな羞恥心を抱える年齢でもある。 自分を産み落とした人物が性によって穢されていると感じることが卑屈に思える年齢でもある。 しかし、彼女は「ドール」だ。永遠の「少女」である。つまり、彼女は永遠の「処女」である。 処女の純潔に憧れた俺は、彼女から産み落とされたと信じることで、自分の純潔さを思いこみたかったのだ。 処女を母ともつことで俺は生きる誇りを勝ち取ろうとしたのだ。 ちょうどイエスが処女マリアから生まれ、やがて神となったように。 俺も処女から生まれた汚れなき体であると思いこみ、誇りを得たかったのだ。 彼女……蒼星石は永遠の処女。永遠に美しい処女。 そして俺は永遠の処女である蒼星石の一人子…。 俺は信仰告白によって蒼星石との関係がギクシャクしてしまっていた17歳の頃に自分のことをこのように分析していた。 自分の心が何を考えどのような状態にあるのか、すべて分かり切っているつもりになりたかった。 生意気な才気は自分の心に言い訳を信じ込ませるために十分な論理を組み立てることが出来た。 しかし、その擬似的な自省は自己陶酔以外のなにものでもなかった。 残念なことに17歳のころの未熟な俺にはそれを気付くことは出来なかった。 自分の晴れない心の霧を、論理と才気で必死に切り開こうとしていたが、 つかみ所のない心の霧は、もがけばもがくほど、ミルクがやがてクリームになるように、 それは重く手足に纏い付いて俺を溺れさせた。 そして、そのクリームに溺れてみる「理想の自分」の夢はとても甘く俺を虜にしていた。 俺は溺れていることにも気付かずに休日は決まって家で過ごし、自分の心を必死に分析していた。 蒼星石はそんな俺の様子をみて心配になってか、必ず決まって近くで内職を行いながら俺に話しかけてきていた。 今の俺ならばそれがどれだけ大変なことかよく分かる。 蒼星石はいくら俺との生活が二年と長くなり、俺の性格を知り、この世界の様子を知ったとはいえ、 彼女の生活する世界はこの家の中だけであり、その家にはテレビさえもない。 彼女が得られる情報はラジオで聞いたわずかな情報と、窓から見えるわずかな世界しかなかった。 あとは彼女が旅してきた悠久の時間で経験したことだけだ。 これほどまでに少ない情報の中から何とか俺の意識をつなぎ止めようと必死に言葉を紡いでいた彼女の苦労は想像に難くなかろう。 しかも、俺は甘いクリームに溺れることに恍惚としていたために、彼女の話をろくに聞いているわけでもなかった。 必死に語りかける彼女をことごとく無視していたと言われれば何も反論できない。 また、彼女が必死になればなるほど、自分のワガママが許されるのだと認識し、ますます彼女に尊大な態度を取るようになる。 必死な彼女の姿を見ることで言いようもない快感を得ていた。 しかし、ある時そんな休日が崩れたことがある。 「マスター、契約を解除しましょうか…?」 いつものように俺の傍で語りかけてきてくれていた蒼星石が不意にこんなことを言いはなった。 「な…何の冗談だ、蒼星石」 「…マスターは僕のことを必要としていない」 暗く濁った蒼星石の目が俺に向けられた。その目は本当に苦手なんだ…やめてくれ。 「マスターが欲しいのは…お母さんなんでしょ?」 「いや…違う」 半分正解…と心の中では呟いた。 母が欲しいと確かにこの時の俺は分析していたが、正確な分析結果は蒼星石が母であって欲しいということだった。 「マスター、もう僕はここに来て二年になるけど…この部屋にただ閉じこもっていただけじゃないんだ。 レンピカにマスターの家族がどこにいるか探らせていたんだ。」 「な…どういうつもりだ…?」 蒼星石が俺の家族を捜していたという事実は俺にとって非常に意外な事実であった。 また同時に非常に不快な行為であった。そのためか思わず俺は表情を歪めた。 しかし、ここで怒り狂っては本当にすべてを台無しにしてしまいかねないと、俺は何とか冷静さを装った。 「それで……見つかったのか…?」 「うん…」 蒼星石の返答に俺は頭を金槌で殴られたような思いがした。 頭の中が真っ白になり、口の中が乾いていくのが自覚された。 二の句が継げず、口をパクパクさせてしまった。 「マスター……顔が青いよ……?」 蒼星石が俺の突然の変化に驚いたように尋ねた。 彼女には俺の変化の理由が理解できなかったようだった。 「あ…あ……そ……そうせい…せき…」 言葉にならないほど前後不覚となってしまっている。 「マスター!!?」 俺はついに緊張の糸が切れた。 そしてそのままブラックアウトすると床に倒れ込み、意識を失った。 気がつくと俺は暗い闇の中を歩いていた。 (ここは……どこ…だ?) 俺は真っ暗の内側を漂うようにひたすら歩き続けていた。 すると頭を何かにぶつけた。 (痛っ……なんだ…コレは…) この暗闇には目が慣れることがないようで、何とか頭をぶつけた対象を凝視しようとしたが、まったく見えなかった。 しかたがないので、頭をぶつけた対象を手で探り当て、その表面を手のひらでなで回した。 するとその物体の表面は埃の山を触ったような不快感を手のひらに与え、また埃の奥に固い樹のような手触りを隠していた。 (…これは樹の枝なのか?) 俺はその物体を触りながらどこまでつづくか辿っていった。 視界のない中、手触りだけで歩みを進めたためかその物体がとてつもなく巨大に感じられた。 やがて、物体が垂直に立つもう一つの物体に合流していることに気がついた。 (やはり…これは樹なのか…?) 物体の手触りは相変わらず埃をかぶっているようだった。 そのとき俺の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。 (マスター!!) 遠くに聞こえた。聞き覚えのある声だ。 (どこなの!?マスター!!!) (しっかりと覚えているよ、蒼星石。) 俺が蒼星石の名前を思い出すと急に目の前に蒼星石が現れた。 (蒼星石!) 思わず俺は叫んでしまった。 (マスター……良かった…) 蒼星石が今にも泣き出しそうな表情でこちらを見ている。悪いな、蒼星石、その表情も苦手だ、しかも居心地が悪い。 (僕が余計なことをしたから…!!) (あんまり、自分を責めるなよ。あと忘れないうちに言っておくが契約を解除する気はない。それともう家族の話は勘弁してくれ) 弱っているところに追い打ちをかけるように約束を迫るのは、優位に立ちたいときの鉄則だろう?俺を責めるなよ。 (うん…僕もマスターと居たい。色々あるけどマスターとの生活は今まで体験したこと無いような楽しさがあるんだ…) (それは…良かったな…。) 前向きなことばと裏腹な寂しそうな表情を見ても俺はやはり言葉少なになってしまう。 何とかして話題を切り替える。 (ここは……どこなんだ…?) 俺はもっとも素朴な疑問を蒼星石に尋ねた。きっと彼女がここに来たと言うことは何か知っているに違いない。 (……) (なあ…隠さないで) ためらったような表情を見せた蒼星石に俺はしつこく迫る。 観念したように蒼星石は小さく呟いた。 (ここは……マスターの心の樹…だと思う) (心の…樹…?やっぱり樹なのか……そして俺の樹?) 俺の口には次々に疑問が湧いて出る。普段の詰問の癖がこんな場面でも機能しているのである。 (心の樹は…誰しももっているんだ…。その樹の成長を助けるのが双子の庭師の仕事…) (ああ…前にも聞いたな、ならば心の樹は見慣れているはずだろう?なぜ断定できないんだ?) (それは……マスターの心の樹が……他では見たことないような樹だから…) (俺の樹は変なのか……?) (いや…変とは思わないけど……普通じゃないんだ) (蒼星石……世間的にはそれを変と言うんだぞ) 俺はフォローにならないフォローをする蒼星石をすかさず野次る。 俺の野次を聞いて帽子が飛んでしまいかねないほど激しくブンブンと首を振って否定した。 (ちちちちち…違うよ!!た、た、ただ、マスターの樹が少しだけみんなと違うというかかわっているというか…) (かわっているは漢字で「変」と書くよ、蒼星石) (わわわ…マスター…ごめんなさい) 蒼星石はついにフォローできなくなったのかシュンとなって頭を下げた。 必死になってフォローして勇気づけてくれる彼女に俺は安心感を覚えた。 (気にしていないよ、変というのは個性的で良いじゃないか) (マスター…) (問題なのは……それがどういう風に変だということだ。普通と何が違う…?) (はっきりいったほうがいいのかな…?) (ああ、俺の心の樹だからな) (簡単に言えば、「病気」に冒されている) (ああ…なるほど) 自分の精神が普通じゃないってコトくらいよく分かっているよ。 (誤解しないで、それが悪いことだとは限らないから) (フォローしなくても…) (そうじゃ無いんだ。マスターの心の樹は「病気」と「共生」してしまっているんだ) (共生…?) (病気…といった言い方がまずかったかもしれない。マスターの心の樹は、心の樹を覆うこの埃 ……たぶんカビみたいなものなんだけど…、カビと共生している) じゃあ、俺はさっきこの埃を「不快」だと言ったが、つまり俺は自分の心の産物を「不快」だって言った訳か。 (しかし…おかしくないか?埃であれカビであれ心の樹が植物みたいなものなら、そんな外敵と共生なんてできないだろ?) (そのはず…なんだ、普通は。でもマスターの心の樹はなぜかカビと共存できている…。しかも、このカビのおかげでマスターの心には雑草が生えない。 このカビがすべて心の雑草が生まれてくることを防いでしまっているんだ) (なら願ったりかなったりじゃないか) (まあ…そうかもしれない。ただ……庭師として見てしまうと異様に見えるんだ…) 蒼星石が俺の心の樹に手をかけてその小さな手で幹をさすった。 俺はなんだか蒼星石に俺の心を触られたようで少しだけ温かい気持ちになり、また恥ずかしい気持ちになった。 (でも…僕はマスターの心の樹に干渉することはできないんだ…) (ああ…) 蒼星石の幹を撫でる手を通して、彼女が俺を大切に思ってくれていることが不思議と伝わってきた。 (もしかした…この心の樹のせいかもしれないな…) (え?) 蒼星石が独り言のように呟いたことに俺は耳ざとく反応した。 (いや…なんでもないよ……帰ろう、マスター?) (あ…ああ…) 俺に向けて伸ばした蒼星石の手を俺はしっかりと握った。 すると蒼星石はそのまま子どもを導くようにまっすぐと暗闇の中を歩き始めた。そして漂う歩みはやがて眠気となる…。 気がつくと俺は自分の家の天井を眺めていた。 「俺…は?」 「マスター、おかえりなさい」 俺の横で蒼星石が微笑んでいた。俺は今の出来事が現実なのか夢なのか判別がつかず首をひねった。 「蒼星石…?」 「夢じゃないよ、マスター。いや……ある意味で夢かもね……フフフ…」 蒼星石が艶めかしい微笑をしていた。 俺は蒼星石が俺の考えを酌んで、こう言ったのだろうと解釈した。 一度深呼吸をしてから俺は上半身を起こした。 「蒼星石…」 そして、俺は彼女の名前を呼んだ。 「なあに?マスター」 「どこにも行くなんていわないでくれよ、いなくなった家族より、俺は蒼星石が大事だ」 恥ずかしいので蒼星石の方は見ないで言った。だから今彼女がどんな反応をしているかは俺には分からない。 「ありがとう、マスター……その…あの…」 「抱いてくれて構わない」 「ありがとう…」 俺は随分回りくどい言い方をしたが、これがいつも通りだった。 俺は彼女を抱っこして愛でることは出来ない。母親だと信仰してしまっているから…。 自分の母親を抱いて愛でることが君はできるかい? 俺が抱けないかわりに蒼星石は自分が抱かれたいときは、俺を抱き締めるということを覚えた。 抱っこされるよりもずっと彼女の満足感は薄かったにも関わらず、彼女はその薄い幸福感をしっかりと味わっていた。 蒼星石らしい慎ましさだったと今でもはっきりと思い出せる。 しかし、この自然と逆の行為が、俺がますます蒼星石に母を重ね合わせることを促していることに、蒼星石も、また俺自身もまったく気付いていなかった。 この時もいつものように俺は大きな蒼星石の腕に抱かれ、するはずもない甘い乳の匂いを嗅ぎとって、赤ん坊になりすましていた。 タイトルの訳と意味 「何もかもが美しいあなた」 聖母マリアを称える詩。
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木漏れ日が差し込む山道に二つの人影があった。大きさから見てまだ子供と言える二人は無邪気な声を上げて走り回る。 ???『おれー! こっちこっちー!!』 長い黒髪が風に遊ばれるのを気にもせず目の前の少女が元気良く声を張り上げた。 艶やかに光る長髪とは裏腹に肌は白く品の良い扶桑人形のような印象を見る者に与える彼女は満面の笑みを浮かべて、手を振ってくる。 おれ『危ないぞぉ! 戻って来い! ここには人を襲う鷹がいるみたいだし』 ???『たかさん? って俺ぇ!! うしろうしろ!!!!』 おれ『……うしろ?』 鷹『少年! その尻ぃ! もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』 ドシュッ!! おれ『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 断末魔にも似た絶叫を上げ白目を剥いて少年は倒れた。 糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた幼馴染に少女が血相変えて駆け寄った時には既に彼は不気味なまでに痙攣を繰り返していた。 犬のように舌を出し涎と泡を口膣から垂れ流す姿は見る者に恐怖すら与える惨たらしい姿を見せ付けられ、幼くも聡明であった彼女は幼馴染がいかに危険な状況に陥ったのか理解してしまった。 ???『俺……? うそだよね……? やだよぉ……こんなのやだよぅ! 俺ぇぇぇぇぇ!!!』 一際激しく震えると少年はぴくりとも動かなくなり、少女の哀しみに満ちた叫び声が虚しく山中で木霊した。 俺「うぉぉぉぉ!?」 ベッドから上半身を跳ね起こすと全身にびっしりと浮かんだ汗が、開放されたままの窓から吹き込んでくる風に冷やされ不気味な寒気を生んだ。 あの日の出来事は忘れもしない。 幼馴染と一緒に山で遊んでいる最中に突然尻に鋭く、重い何かが凄まじい勢いで突き刺さったのだ。 その時に漏らさなかった当時の自分を褒めてやりたいと時折思う。 結局まだ幼かった当時の自分はその強烈な痛みに耐え切れず泡を吹いて失神してしまい、次に目を覚ました時には病院のベッドに横たわっていた。 あの一件が使い魔とのファーストコンタクトでありワーストコンタクトであったことを幼少時の自分が知るのはだいぶ先の話になる。 主治医『おはよう俺君! 切れ痔で済んでよかったね!!!』 そして、これが初めて顔を会わせる年老いた主治医からの第一声である。 泡を吹いて失神までしたというのに本当に切れ痔で済んだのかと幼いながらも食って掛かったのは今でも覚えている。 急降下してきた鷹の嘴が突き刺さったのだ。 切れ痔で済んだと言われて、はいそうですか、と納得できるわけがなかった。 俺「思い出しただけで痛くなってきた。おい! 起きてるだろう!」 鷹『何だ一体。せっかく初めて出会った時のことを夢に見ていたと言うのに起こすとは随分と無粋な』 俺「お前も同じ夢を見ているとは……忌々しい」 鷹『初めての出会いに何てことを! そうか……いや失敬。もう少し優しくすればよかったか。思えば君はまだ幼かった。この鋭い嘴を君の青い蕾に突き立てるには些か力が強すぎたな』 俺「強すぎたじゃないだろう! あれはもう刺殺の勢いだ!!! というかだな! 使い魔の契約はタッチだろう!? なんで突き刺した!?」 鷹『すまないと思っている。初めてにしては乱暴にし過ぎた。衝動を抑えることの出来なかった私を許してくれ』 俺「反省する感情がまるで込められていない謝罪を受けたのは初めてだよ」 ビキビキ 鷹『安心したまえ。女性で言う処女膜の部分には到達していないんだ』 俺「何が言いたい」 鷹『あの時偶然にも使い魔の契約が発動してしまった所為で嘴の根元までいけてないんだ。だから君の純潔はまだ保たれている』 俺「知るか! 大体尻の穴の純潔ってなんだよ!? それにもうあんな痛い思いはごめんだからな!!」 鷹『その痛みすら快楽に変わることが何故分からん!!!』 俺「鷹が言うな!!!」 堪忍袋の尾が切れる寸前ネウロイの出現を知らせる警報が基地内に響き渡り、弾かれたように起きた俺が着替えを済ませると部屋を飛び出してブリーフィングルームへと走っていった。 ――― 整備兵A「今日は随分と早いご帰還じゃねぇか」 戦闘空域からの帰還を果たした俺を出迎えたのは、この基地へ配属された時からの付き合いの整備兵Aだった。 油が染み付いた作業服を身に纏い、鼻頭と頬が所々煤けた笑顔を浮かべ、同じように油で汚れた手袋を外した掌を掲げてみせる。 俺「よっ」 ストライカーを脱いだ俺が彼の掌に自分のを打ち付けながら破顔した。 子供がみたら笑い出す無邪気な笑顔は自然と人を惹きつける不思議な魅力を漂わせている。 事実、彼は配属されてから今日に至るまで様々な人間と知り合い交友関係を広げ、深めていった。 ある時は門を見張る衛兵にこっそりと定子が作った肉じゃがを差し入れに持っていったり、時には整備兵や清掃員の人間を集めて密かに酒盛りをしたりなどなど。 今では基地に所属する殆どの人間が彼と良き関係を築いていた。 俺「優秀な戦闘指揮をしてくれる人がいるからな。下っ端の俺は動きやすくてたまらんよ」 茶目っ気たっぷりに言い放ち、少し離れたところで同じようにストライカーを脱いでいるポクルイーシキンに向かってウインクしてみせる。 それに気付いた彼女は照れたように、はにかみ軽い会釈で返すとクルピンスキー、ニパ、管野と共に格納庫を後にした。彼女の額に青筋が浮かんでいたように見えた。 俺「またストライカー壊れたのか?」 整備兵「俺らとしては大歓迎さ。仕事が増えれば給料も増える」 俺「そういうものなのか?」 整備兵「俺たちにとっちゃ壊れたものを直すのは仕事なんだ。ストライカーの破損を気にして思う存分戦えないなんて洒落にならないだろう? 壊れたんなら俺たちで直すから遠慮なく戦って欲しいね」 その言葉は彼だけのものではない。ここペテルブルク基地に所属する全ての整備兵の言葉であった。 集められたのは全員自らの腕に自信と誇りを持つ者達ばかりであり、彼らから言わせればストライカーくらいすぐ直してみせるとのことだ。 俺「伝えておくよ」 整備兵A「それにしてもウィッチと一緒に空へ上がれるなんて幸せ者だねぇ」 俺「羨ましいか?」 整備兵A「いんや。俺ぁお前らの土台で充分だ。臆病者の俺には鉄火場に出る勇気なんてないさ」 整備兵Aは再び手袋を嵌め、 整備兵A「俺たちには空を飛ぶ力はねぇ。でも空を飛ぶお前たちを支えてやることは出来る。出来ないことを嘆く暇があるなら出来ることを精一杯やるさ」 これが自分の仕事なのだ、といった口調で呟き袖を捲くし上げる。 俺「俺たちもお前らがいてくれるから安心して戦えるんだよ。これからも期待してるぜ?」 整備兵A「任されよ」 整備班長「おいA! いつまで駄弁ってやがる! 新婚だからって浮かれてるんじゃねぇぞ!!!」 そんなやり取りをしていると整備班長が声を荒げて怒鳴った。 格納庫の一番隅で車両の整備を担当しているというのに入り口近くで談笑している自分たちの耳にもはっきり届く大音響。 巨漢の傍で仕事をしていた整備兵たちは突然の爆音に驚き、余りにも大きい怒号に反射的に耳を塞ぎ、怒号の原因となるこちらへ恨めしい目線を向けてくる。 それでも手は休めないのだから流石はプロといったところだろうか。 整備兵A「分かってますよ!!!」 俺「新婚か・・・・・・子供はいつ生まれるんだっけか?」 整備兵A「今月中には、な」 基地から少し離れた街でパン屋を営む彼の妻は実に気立てが良かった。 会ったばかりの自分に対して差し入れにと焼きたてのパンを振舞ってくれるなど良く出来た女性だと思う。 新たな生命を宿す膨らんだ腹部を愛おしそうに撫でる姿は聖母といっても何ら過言ではなく彼自身、自分にはもったいないと頻繁に口にするほどである。 俺「ならしっかり稼いで女房と子供養わないとな。頑張れよぉ、お父さん」 整備兵A「うるへー。言われるまでもねー。お前もさっさと仕事いけよー」 俺「へいへい。じゃあな」 整備兵たちの視線がいよいよもって鋭くなってきた。そろそろ頃合だろうと思い、ゆっくりとその場を去ろうとすると、 整備兵A「俺!!」 俺「おっとぉ!!」 投げて渡された紙包みを受け止める。 整備兵A「やるよ! 俺の愛する女房が焼いた世界で一番美味いパンだ! 味わって食わないと許さねぇからな!!!」 俺「サンキュ!!!」 彼なりの友情を胸元にしまいこみ今度こそ格納庫を後にした。 機械の駆動音や巨漢の指示が飛び交う喧騒を耳で楽しみながら。 ――― 戦闘が終了して基地へと帰還、そしてこの談話室に連行され、有無を言わさぬ圧力を前に成す術も無く正座をさせられてから一体どれだけの時間が経ったのだろうか。 時計に目線を移してみれば、まだ三十分も経っていない事実に溜息を吐いた。 ポクルイーシキン「クルピンスキー中尉?」 クルピンスキー「あぁ、聞いてるよ。サーシャ」 実際は殆ど聞き流しているのだが、それを馬鹿正直に告げれば正座の時間が倍増するのは目に見えているので、生返事を返す。 そろそろ足が痺れてきた。 クルピンスキー「(これは・・・・・・そろそろ限界、かな?)」 ニパ「そんなこと言ったって壊れちゃうものは壊れちゃうんだし」 管野「そうだそうだー」 両隣で自分と同じように正座をするカタヤイネンと管野が表情を曇らせて不満を口にしており、このままだと空気が険悪な方向へと流れていってしまう。 ここ最近、ストライカー破損について彼女は敏感になり過ぎている傾向があるのは気のせいだろうか。 俺「ここ掃除したいんだけど……まだお説教続いてる?」 よれよれの清掃服に身を包み、箒と塵取りを持った救世主が現れた。それまでお説教ムード一色であった空気が彼の登場によって幾らか薄まったのをクルピンスキーは見逃さなかった。 素早く立ち上がると、カタヤイネンと管野を引っ張り出口へと向かって走り出し、二人もまた彼女の意図を察したのか足を動かす。 クルピンスキー「ごめん俺! この埋め合わせは必ずするから!」 脇を猛スピードで通り抜けて廊下へと飛び出し、一目散に駆け去っていく三人に目を丸くする俺と、 ポクルイーシキン「こら! 待ちなさぁい!!」 可愛らしく頬を膨らませるポクルイーシキンだけが談話室に残されることとなった。 長時間の正座を強いられていたのが嘘のような快走に流石は現役軍人だな、と胸中で感嘆の吐息を吐き、矛先を失った怒りを持て余すポクルイーシキンへと視線を向ける。 ポクルイーシキン「変なところを見せてしまって、すみません」 気恥ずかしさを顔に出したポクルイーシキンが若干頬を染めて視線を泳がせた。 俺「気にしないけど。あんまカリカリしてたってしょうがないと思うけどね」 ポクルイーシキン「はい・・・・・・」 俺「考えを改めろなんて言わないさ。それでも一度溜まった息は抜いちゃっても良いんじゃないか? じゃないとサーシャが倒れちゃうよ」 ポクルイーシキン「そんなに思い詰めた表情をしていましたか?」 新参者の目から見ても分かる程度に、と続けて笑いかける。いつもと変わらない人懐っこい笑顔を見せられポクルイーシキンの頬が自然と緩んでいった。それから整備兵Aから言付かった伝言を彼女に告げる。 ストライカーの整備や修理なら自分たちが受け持つから、空を飛び、陸を駆るウィッチは迷うことなく自分の戦いに専念して欲しい、と。 俺「サーシャがどれだけ苦労してきたのか知っている身としては、やっぱり肩の荷は降ろして欲しいかな」 満足に装備が揃わぬ中での撤退戦。 いかに当時が困難な状況であったかは想像に容易い。 ポクルイーシキン「少し……考えさせてください」 談話室を後にする彼女のいつもよりも小さく見える背中を見送りながら俺の黒瞳はどこか不安の色を湛えていた。 ――― 俺「おー! 絶景! 絶景!」 あれから仕事を終え、仲の良い衛兵Aと勝負を繰り返し懐が温まった――それでも大人気無かったので五割は返してやった―――俺は瞳を輝かせて夜空の星々を仰ぎ見ていた。吐き出す呼気が白く、頬が痛いくらいに冷える中、ペテルブルクの厳しい寒さなど物ともせずに浮かんだ薄い笑みは暗闇に満ちた夜天に魅入っていた。 ポクルイーシキン「こんばんは。俺さん」 足音と共に聞き覚えのある声が背後から飛んで来たので、振り向いて見るといつも身に付けている軍服の上から防寒用のジャケットを羽織り、両手にマグカップを持ったポクルイーシキンが柔らかい笑顔を浮かべて、こちらへと歩み寄ってきた。 相手を隈なく包み込む優しい微笑みに俺もまた釣られるように頬を綻ばせる。 俺「どうしたんだ?」 ポクルイーシキン「そういう俺さんは?」 俺「寝付けないから星でも見に」 ポクルイーシキン「なら、私もです」 ならって何さ、と口元に相変わらずの薄い笑みを滲ませながら差し出されたマグカップを受け取って口元へと運ぶ。 白い湯気を放つ熱いココアを胃に流し込んだ俺の顔が満足げな表情を形作った。 ポクルイーシキン「口元が汚れちゃってますよ?」 隣に座りこみ、ポケットから取り出したハンカチで俺の口元に出来た焦げ茶の髭を拭っていく彼女の笑顔は楽しそうに見える。 まるで手が焼ける弟の面倒を見る姉のような笑顔に内心気落ちしそうになった。 自分の方が年上だというのに、この基地は年不相応なまでに大人びた少女が多すぎると感じるのは自分だけだろうか。これでは自分の立つ瀬が無いではないかと苦笑いを漏らす。 俺「空気が澄んでるから星もよく見えるなぁ」 マグカップを脇に置き、そのまま寝転がる俺の眼差しの向こう。黒の天蓋にばらまかれた無量の星彩を眺めながらポクルイーシキンが口を開いた。 ポクルイーシキン「私・・・・・・もう少し心のゆとりをもってみようと思います」 一言ずつ紡ぎだすポクルイーシキンの言葉に耳を傾け、頷く。 俺「・・・・・・・分かった」 返したのはたった一言だったが、背中を後押しするようなニュアンスが含まれていた。 ポクルイーシキン「でも! だからってストライカーを粗末に扱っては駄目ですよ?」 俺「分かってるよ」 冗談めいた笑みを口元に浮かべマグカップを差し出す。月の光に照らされるポクルイーシキンの白い頬に薄紅が灯った。 ポクルイーシキン「俺さん。今日はありがとうございました」 カツン! 小気味良い音が小さく月明かりの下に響いた。 サーシャ回終了。 サーシャ回なのにサーシャが全然出てこない気がする。
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815 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00 28 42 ID MAkDUla2 バスに乗った俺たちは前にある整理券を取り、後ろの方へ乗った。田舎では後払いが基本だ。バス停の距離によって料金が変わる。 バスの中には結構人がいた。汗まみれの部活帰りの学生、友達同士仲のいい女子高生、スーツを着たサラリーマン、おばちゃん。 皆いろんな理由があってバスに乗っているんだろうが、その中でも俺らのような目的で乗っているのはいないだろう。 前に表示されている電光の掲示板で料金を確認している時、隣に座ったエリーから話しかけてきた。珍しい。 「申し訳ありません。」 「どうしたの?」 「私はお金を持っていません。」 なんだそんな事か。大して気にも止めずに反射的に答えた。 「俺が払ってやるから。」 「ありがとうございます。」 そういや混んでるな。速くついてほしいんだけど。 それからは一切会話はなく、ただバスがたまに停まり入ってくる客を迎えたり送ったりしている。俺は窓際で外を睨んでいるエリーに確認を取った。 「次だよね。」 「はい。」 俺が声をかけた瞬間バッと振り向き答えた。迫力にひるんだがその後はうんうんと頷きごまかした。何歳下の子にビビってんだよ……。 816 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00 32 07 ID MAkDUla2 窓際のエリーは横にある次停まりますのボタンを押してくれた。 俺達以外にも降りる人がいるかもしれないし、モタモタしていると迷惑がかかる。再びエリーの手を取った。エリーもぎゅっと、小さくて折れてしまいそうな真っ白な手で、握り返した。 そして椅子から立ち上がり、前の料金を入れる箱に俺とエリーの分のお金を投入した。 降りる時にバスの階段でエリーがこけると良くない。まあそれも笑えそうで見てみたい気はするけど……いやいや とにかく先に降り、エリーの両手を弱く握ったままお姫様のように迎えた。 当然ながら表情は変わらん。無愛想を極め尽くして精神崩壊起こしたみたいな顔をしている。 片手だけ離し、現場の一つである自販機が壊されたという場所へ歩き出す。 すっかり夕焼けが町を照らしている。学生の集団が歩道ででっかい声で会話している。 817 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00 33 47 ID MAkDUla2 大きい自動車整備工場についた。事件が起きたのはここだ。道路に職員たちが使えるように自販機があったのだろう。工場の手前にも不動産屋があったり、道路を真っ直ぐ行けば公園もあるようだ。公園の小学生はバイバーイと言ってマウンテンバイクを漕ぎだした。 ここに自販機はそれこそ生命線だろうな。 子供に聞くのは効果的だろうが、今の時代変態と間違われてもおかしくはない。せめて後日、明るい時に声をかけよう。親しみ安いお兄さんを演出するため、野球ごっこに参加して、だ。 さりげなくエリーに相談するように投げ掛けた。 「にしても、自販機ってどこにあるんだよ。」 するとどこからともなく突然エリーが話しかけてきた。 「自販機が見当たらないという事は回収する必要があるほど破壊されたという事でしょう。赤に塗装されたプラスチックの破片、地面に雲の巣や虫の死骸があるということはここに設置されていたと考えられます。」 なるほどな。そりゃ手強そうだ。とりあえず……エリーはどこから声をかけてくれたんだ、留守番電話ボイスで。 「え、エリーどこ?!」 「ここです。」 ヒョコッと背後から出てきた。俺は驚き思わず声を上げ、後ろを振り向いた。 「………一応見てみてください。」 今度は彼女から俺の手を握り、早歩きで前へ進んだが………エリーはやっ!!こけそうになった。 さっき俺がいた場所は工場の大きな入り口付近、そしてエリーに連れられたここは大きな駐車場だ。社員のものと思われる車が数台停まっている。 たしかに、エリーが言っていたような形跡のある場所がそこにある。後ろのセメントの壁に隣接されていたのだろう、そこだけ汚れで真っ黒だ。 「ふーっ。とりあえず見てみるか。」 「お願いします。」 あんまり得意な分野ではないがやるしかない。 俺は隣接されていたであろう壁に掌が汚れることを覚悟の上でべたっと付けた。 いつものように『この情報』を読みとれ、読みとれ、読みとれ……………と手に体の全神経をやる。頭が痛くなり、きーんと頭に響く耳鳴りがする。 ………すると物凄い衝撃が掌から腕を伝い頭に伝わった。瞬間、この場所に残された残留思念が映像のようになって見えた。俺の目の前にはコンクリートの壁しかないが、見えているものは俺がほしい情報が映像化されたものだ。 映像は砂嵐が走っていて、見にくいが、なんとかわかる。 818 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00 36 00 ID MAkDUla2 「あ、あかがかかったセミロングの、女が、じはんきを何度かなぐって………つばをはいた……たばこを吸っているようだ………………。」 「お疲れ様です。」 「あッ………はぁーっはぁーっ……」 俺が見た女は、顔はよく見えないがとてつもなく怒っているようだった。エリー程ではないが目を見開いていて明らかに余裕のない顔だ。 そして華奢な腕からは考えられないような怪力で、何度も何度も何かを壊すプレッシャーのように同じポイントを殴っていた。 俺はフルマラソンの後のように、上半身を支えるため両手を膝に起き、俯いている。 喉が乾いた…………。こんなとき、自販機があったら………。壊したあいつは本当に鬼だ、と工場の社員さんたちに心底同情した。 さて、これからどうする。聞き込みといってもこの時間じゃあな。それにいつも以上に疲れた。ずいぶん運動してない奴にフルマラソンしたあと腹筋してと頼まれているようなものだ。ものだっ! 携帯を見ると、もうそろそろ6時だ。 819 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00 38 22 ID MAkDUla2 「よし、手がかりは掴めた。残留思念の映像は曖昧だったが犯人の容姿は一目見ればこいつだ、と判断できる。今日はもう帰るぞ、俺立ってるのもやっとだから。」 「お疲れ様でした。あなたが帰っても私は聞き込みや張り込みをします。」 …………そういうわけにはいかない。 こんな目玉した女の子を一人じーっと電柱の裏とかに隠れさすのはよくない。警察につき出されるに決まっている。説得しよう。 「………頼む、君を一人にさせるわけにはいかないんだ。」 真剣に、目を合わせて言った。まあ嘘ではない。 「………。」 よし、もう一押しだ。 「そうだ、今度は俺が休みの日にじっくり調べよう。 俺は犯人の似顔絵を描いとく。君は俺が学校行ってる間、もし外出する時があったらそれに似た奴を探すんだ。」 「………わかりました。」 「いい子だ!」 無愛想ではあるが、今日こうしてじっくり話をしてみると何かが見えてきた気がした。………あ、そうだ! 「じゃあ今日は喫茶店行くか。アイスでも食べよう。」 「お気をつけて。」 「君も来んだよ。」 「お金を持っていません。」 「俺がおごってやるよ。」 「ですが………。」 「あああぁ!!俺はアイスが食べたいの!!でも男一人でアイス食べてるとこなんて見られたくないの!!わかったらこい!!」 俺は不満を訴えるためにじだんだしてやった。 「………わかりました。ごちそうになります。」 「よし!」 俺は両手でガッツポーズを取っていた。 「この辺りは俺が昔よくお世話になった『にゃんこ喫茶』という店がある。あそこのパフェは最強なんだ。」 「そうですか。」 俺たちは現場をあとにした。 そういや歩き出すとき、自然に彼女の手を握っていた。もちろん彼女も握り返してくれたが、しばらく気がつかなかった。
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日本人の平均をはるかに上回るバストはまひろの顎の辺りで力強く圧迫され、柔軟にその形を変える。 「ま、まひろちゃん! 落ち着いて落ち着いて!」 「わー! セラスさん、フワフワー!」 なだめながら引き離そうとするも、まひろはなかなか腕の力を緩めようとしない。 親愛の情を示してくれるのは嬉しいが、事ある毎に抱きつかれるのも考えものだ。 胸だって強く押されれば割と痛い。 個々人のパーソナリティという面まで頭が回らないセラスは早合点気味に思い知った。テレビや本から得た 日本人の国民性に関する知識を改めねば、と。 一方のまひろはこの憐れな英国人女性の内心にはやや無頓着である。 彼女流に表現するところの“フワフワ”を好きなだけ楽しんだかと思うと、まひろは不意に セラスから身体を離した。 「あ、まずは着替えなきゃね。風邪ひいちゃうよ?」 まひろはハッピーな気分が伝わってくるかのようなステップでタンスに近づくと、しゃがみ込んでおもむろに 中の衣服をゴソゴソと引っかき回し始める。 おそらくセラスに着せる服を吟味しているのだろう。 手持無沙汰のセラスは、まひろがあれこれと悩んでいる背中を見つめているのにも飽きたのか、 何の気無しに部屋の中を眺めていた。 広さは六、七畳。高校生一人が暮らすには充分過ぎる程の広さだ。野暮ったくあまりお洒落に見えない カーテンやベッド、学習机は寄宿舎の備え付けだろう。 (噂には聞いてたけど、本当に狭いんだ……) 少々余計な御世話だが、悪気があっての感想ではないのだろう。 やはり母国イギリスの住環境に慣れていれば、六畳や七畳の広さでも一人用の個室としては 狭苦しく感じてしまうのも無理は無いのかもしれない。 視線はさほど大きくない本棚へと移る。 収納されているのは漫画単行本ばかり。それも大半がジャンプやマガジンに連載されているような少年漫画だ。 もっとも、セラスには作品名や作者や出版社などわかる筈もなく、ただ好奇心をくすぐられるだけである。 (あっ、アレは“MANGA”かな? 日本のコミックって大人でも楽しく読めるっていうけど、 どうなんだろう。ちょっと読んでみたいな……) 当面の居場所を確保出来た安心感からか、そんなつまらない事にも興味が湧いてくる。 その時、読めない文字が書き連ねられた背表紙を眺めるセラスにまひろが声を掛けた。 「はい、コレ! 少し小さいかもしれないけど。あとタオルね」 右手には白のブラウスと紺色のロングスカート、左手にはピンクのバスタオルが乗せられている。 どちらも少し雑なたたみ方なのは持ち主の性格上、致し方無い。 セラスはしばらくの間、受け取った着替えとご機嫌なまひろの全身を見比べ、自分の身体を見下ろした。 身長は175cmに達しようかという自分。目の前の少女はおそらく160cm前後。 加えて、手足の長さ。バスト、ウェスト、ヒップ。 それでも、にへらっと曖昧な笑顔で礼を言う事しか出来ない。 「あ、ありがとね(たぶん、少しどころじゃないと思う……)」 お人好しで気弱な彼女の方が、どちらかと言えば日本人的なのではないだろうか。 確実にサイズの合わない、コーラを飲んだらゲップが出るのと同じくらい確実にサイズの合わない ブラウスとスカートを着るべく、セラスは雨に濡れたHELLSING機関の制服を脱ぎ始める。 それは見ているまひろがドギマギするくらいの堂々とした脱ぎっぷりだ。 特に恥ずかしがったり、隠したりする様子も無い。 元婦人警官としての習慣、女性同士、国民性の違い。まずはこの辺だろう。まひろが驚くのも当然か。 テキパキと制服の上下とインナーを脱ぎ、ブラジャーを外す。 あっという間にパンティ一枚の半裸となったセラス。同性だというのにまひろは彼女の肉体から眼が離せない。 人間を魅了する吸血鬼としての無意識の性質もあるが、セクシーさと健康的な雰囲気を兼ね備えた スタイルの良さもまた一因になっているからであろう。 確かにウェストや二の腕、太腿等はまひろよりもだいぶ太い。しかし、それはあくまで部分部分に限った 数字の上の話だ。 何せ身長や四肢、体幹の規格が違う。 総体的にその裸体を眺めれば、肥満とは縁遠い均整の取れた美しいスタイルなのだ。 インターナショナルクラスのサイズを誇るバスト。乳房そのものの張りと鍛えた大胸筋によって、 重量と重力に負ける事無く、桜色の先端がやや上を向いた理想的な形状を保っている。 その下に続くウェストは滑らかな曲線を以ってくびれており、腹筋はごくうっすらと六つに 割れているのが見て取れた。 長い手足も筋肉質ではあるが、僅かな脂肪を伴った女性らしい豊かさを失ってはいない。 「すごーい……」 まひろは顔を真っ赤にしながらも、かなりの近距離で身を乗り出して食い入るようにセミヌードの セラスを見つめていた。 何故か両の拳は胸の前で力強く握られている。 「え!? な、何……?」 流石に砂被り席状態で凝視されては、ある程度開けっ広げなセラスも怯まずにはいられない。 ビクリとまひろから身体を離し、反射的に両腕で胸を覆い隠した。 だが、まひろはそんなものはお構い無しで観賞を続けている。 終いには右手の親指と人差し指で丸を形作り、そこからセラスの胸を覗き込むという珍妙な真似を始めた。 「むむむ! 97、98、99、100、101……――け、計測不能!」 計測不能だか何だか知らないが、セラスの方は理解不能だ。 この少々変わった日本人少女は何がしたいのか。 「すごいね! “まひろアイ”でも測れないなんて初めてだよ!?」 「はぁ……あ、ありがとう……」 たぶん褒められている。そういう事にしておこう。 (まひろちゃんってもしかして同性愛者なのかな。でも、それとはちょっと違う感じもするし……) ようやく着替えが終わったのは、セラスがそう悩み始めた頃だった。 そして、案の定と言うべきか、まひろの私服はセラスにとってただの拘束具にしかなっていない。 長袖のブラウスは七分袖となり、肩周りの違和感と動きにくさが尋常ではない。 前のボタンもその半分近くが留められず、不本意ながら胸元をVの字に大きく開けざるを得ない。 やっとの思いで留めたボタンとボタンの間ははち切れんばかりに開き、白い素肌が顔を覗かせている。 スカートに至ってはホックを留めるどころか、ジッパーすらも途中までしか上げられない。 ロングスカートなのに脛まで丸見え、などとは書くまでも無いか。 「うぅ、まだ苦しい……。ボタンもう一個外そ……」 セラスは泣く泣く、深い谷間を露にさせる憎きVの切れ込みをもう一段階深くする。 その様子を見ているまひろの顔は、何とも残念そうな表情でいっぱいだ。 「あやや、やっぱり小さすぎたのかなぁ」 普通は着せる前に気づくのだが。 「ん~、じゃあねぇ……――」 まひろは再びタンスに向かうと、もう一組の衣服を手にしてセラスに尋ねた。 「――こっちのおっきいTシャツとスェットのズボンにする?」 それを眼にし、耳にしたセラスの胸元でボタンがひとつ、プチリと弾け飛ぶ。 「そっちを先に出してよぉおおおおおおおおおお!!!!」
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ノーヴェ、ウェンディ、チンクの三名は、天然の洞窟を利用して作られたスカリエッティのアジトへと戻って来ていた。 思わぬ邪魔が入ったが、作戦目標である時空管理局地上本部並びに機動六課の制圧と、コスモと黄金聖衣の性能を確認できた。これだけの力があれば、聖王の器の確保などいつでもできる。 「くそ、あいつら!」 しかし、ノーヴェは戦いの途中で撤退させられて、いたく不機嫌だった。ガチャガチャと足音荒く洞窟内を歩く。しかも、ノーヴェの不機嫌に拍車をかけている事柄がもう一つあった。 「おい、いいかげん降りろ!」 「やだっスよ」 狭い通路の天井すれすれをウェンディが飛んでいるのだ。黄金の翼が羽ばたくたびに、ノーヴェたちの頭にぶつかりそうになる。 「それにしてもこの翼、いいと思わないっスか。このデザイン考えた人天才っス」 ウェンディは陶酔したように、サジタリアスの翼に頬ずりする。 チンクは不思議そうにウェンディを見上げた。 「前から疑問だったのだが、射手座とは弓矢を持った半人半馬ではなかったか? どうして翼があるのだ?」 黄金聖衣が支給される際に、ナンバーズは星座の伝説も一緒に教えられている。 「細かいことはどうでもいいんスよ。ほら、こうするとキューピットみたいで、いいっスよね~」 ウェンディは空中で弓矢を構えてポーズを決める。 本人は可愛いつもりなのかもしれないが、ごつい鎧で本物の弓矢を構えられたら、勇ましいという表現しか出てこない。しかも射抜くのは、恋心ではなく正真正銘の心臓だ。これを可愛いと言う奴がいたら、正気を疑う。 「知るか」 ウェンディはサジタリアス聖衣がいたくお気に入りのようだった。ノーヴェにはどうでもいいことだが。 「あー。そんなこと言っていいんスか? ノーヴェだって気に入ってるくせに。アレンジ技なんて習得したの、ノーヴェくらいっスよ」 ツンツンと指でノーヴェの頭のてっぺんをつつく。 ライトニングプラズマは蹴りでもできるはずだと、ノーヴェが訓練室にこもりきりになったのを、ウェンディはしっかり記憶している。幸い、聖衣の意思に雛型の様な動きがあったので、短期間でノーヴェは蹴り技のライトニングプラズマを習得できた。 「うるせぇ」 ノーヴェが悪態をつくが、頬を赤らめているので図星だったのが丸わかりだ。 やがてスカリエッティのいる部屋へと到着する。そこにはすでに他のナンバーズが集結していた。薄暗い部屋を、黄金聖衣の輝きが照らし出している。 ナンバーズの大半は、ドゥーエを興味深げに見ていた。長期の潜入任務のせいで、ドゥーエはほとんどの姉妹と面識がないのだ。 「お帰り、諸君」 たくさんのモニターと機械を背に、白衣を着たスカリエッティが椅子に腰かけていた。優男風の容貌から、隠しきれない狂気を漂わせている。 「どこか不具合はないかね?」 帰還したナンバーズに、スカリエッティが労わるように尋ねてくる。スカリエッティにしては、少々珍しいことだった。 黄金聖衣を入手してから、わずかな日数で実戦投入可能にしたスカリエッティの頭脳は、天才の一語に尽きる。だが、充分なテストもなしに実戦に送り込んだことに不安があったのかもしれない。 「いえ、まったく問題ありません」 「そのようですね。取りつけた機械は正常に作動。ナンバーズの肉体に悪影響も認められません」 ウーノが妹たちの身体状況をつぶさに調べ、そう結論づけた。もっとも不安視されていたディエチのイノーメスカノンも、数カ所不具合が出ているだけだった。これで問題点が明らかになったので、次回にはコスモとISの併用に耐えられるよう改良できる。 「そうか。だが、念には念を入れて、精密検査を行おう。その後は……」 スカリエッティは一呼吸置くと、芝居がかったしぐさで両腕を広げた。 「時空管理局を破壊し、理想の世界を築き上げる!」 つまらない倫理観や法に縛られることなく、自由に研究を行う。それがスカリエッティの理想だった。 そこでセインが手を上げた。 「ところでさ、ドクター。せっかく私らパワーアップしたんだし、新しい名前考えない? ナンバーズだけじゃ味気なくって」 「では、ゴールドナンバーズでどうかね?」 間髪いれずに答えられ、セインは提案したことを後悔した。スカリエッティが名前にこだわらない性質なのは理解していたが、安直かつダサい。 この名前は明らかに不評らしく、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディが、セインを視線で責め、チンクが微妙に嫌そうに、トーレまで渋い顔をしていた。 「ドクター。ゾディアック・ナンバーズというのはいかがでしょうか?」 妹たちの困窮を見かねたのか、ウーノが提案した。ゾディアックは黄道十二星座を意味する。 「それがいいです!」 セインが声高に賛成した。こちらもそのままではあるが、ゴールドナンバーズよりはましだ。それにこの話題をこれ以上続けると、もっと変な名前にされかねない。 「では、そうしよう。これから君たちはゾディアック・ナンバーズだ」 スカリエッティが認めたことで、ナンバーズの間にほっとした空気が流れる。 そんな中、使う機会もほとんどない名前に一喜一憂する姉妹たちを、クアットロは蔑みに満ちた眼差しで見つめていた。 ナンバーズの襲撃があった翌朝、六課で唯一残った棟の一室で、はやては隊員たちの入退院の手続きと、報告書の作成に忙殺されていた。 シグナムは地上本部の現場検証に行っており、なのはは六課預かりとなった星矢たちの世話をしてもらっている。 窓の外には、残骸と化した六課の建物たち。こうして部屋で一人黙々と作業を続けていると、はやてはまるで自分が廃墟の主の幽霊になってしまったかのように錯覚してしまう。 (あかんな。疲れとる証拠や) 徹夜には慣れているが、今回は精神的疲労があまりにも大きく、脳が睡眠を欲していた。 隊員たちは、非戦闘要員を含めてほとんどが負傷した。相手が手加減してくれたこともあって死者は出ていないが、無傷で済んだのは、はやて、シグナム、なのはのみ。 軽傷の者は今日の午後には退院してくる予定だが、フォワード部隊ではギンガの負傷が酷く、復帰には少なく見積もっても数週間はかかると診断されている。フリード、ヴォルテールも同様で、大幅な戦力減だ。 はやては書類の作成に区切りをつけると、前回の戦闘で判明した聖闘士のデータに目を通した。 急ピッチで書かれた為、誤字脱字が散見できるが、ここはこれだけ早く仕上げてくれたことに感謝すべきだろう。 聖衣は未知の材質で構成され、かなりの強度とわずかながら自己修復機能を持つ。魔力ダメージも軽減でき、微弱ながら意思のようなものも存在するので、バリアジャケット型デバイスと言ったところだろうか。 壊れても再構成できないが、防御力はバリアジャケットを上回る。黄金聖衣に至っては、どれだけの強度を誇るのか、想像もつかない。 次に聖闘士が扱うコスモというエネルギー。魔力によく似た性質を持つが、運動能力と攻撃力の強化に特化しており、射程は短いが魔力の様に撃ち出すことも可能。 攻撃力は六課隊長クラスならどうにか渡り合えるレベルだが、問題は光速に達するスピードだ。光速の技を回避する術は魔導師にはなく、また光速で動く相手に命中させる方法もない。 「はやてちゃん」 「うん。わかった」 なのはに呼ばれ、はやては廊下に出た。 「なのはちゃん、ナンバーズと実際に戦ってみた感想はどうやった?」 聖闘士たちの待つ部屋へと向かいながら、はやては質問した。 「正直、一対一で勝つのはかなり難しいね。あまりにも速すぎる」 星矢と瞬が足止めしてくれなければ、魔力チャージする時間もなく、例え発射したところでかすりもしなかっただろう。 「フェイトちゃんなら?」 「リミットブレイクを使えば、近い速度は出せるかもしれない。でも、一発でも掠めたら終わり。分のいい賭けじゃないね」 相手の防御を抜く前に、撃墜されるだろう。そもそも真・ソニックフォームはスピードと火力で相手を圧倒することが前提であって、自分より速く固い相手をするには不向きだ。 Sランク魔道師二名でも勝ち目がない相手が、十二人もいる。 正式な辞令はまだだが、六課はレリック捜索から、スカリエッティ逮捕に任務が切り替わるだろう。あの強敵に――黄金聖闘士の力を手に入れたナンバーズに、再び挑まないといけないとなると、頭が痛い。 「星矢君たちが協力してくれそうなのが、不幸中の幸いか」 彼らは黄金聖衣を取り返すのが目的だ。利害は完全に一致している。 そうこうするうちに、目的の部屋へとたどり着く。 少し広めの部屋に、聖闘士四名が思い思いに座っていた。 聖闘士たちは聖衣を脱ぎ、シャツとズボンというラフな格好をしていた。紫龍だけは薄紫の拳法着を着ていたが。 皆、スバルより年下らしいが、身長もあるし、だいぶ大人びて見える。星矢と瞬が十三歳、紫龍と氷河が十四歳というのが数え間違いにしか思えない。 「私は時空管理局所属、八神はやて二等陸佐。この機動六課で部隊長をしてます」 はやては敬礼をしながら星矢たちに挨拶する。 「星矢だ」 「紫龍」 「氷河」 「瞬です」 聖闘士たちが簡潔に名乗り返す、 「遅くなりましたが、まずはお礼を言わせて下さい。仲間たちを助けてくれて、ありがとうございます」 「何、いいってことよ」 「ちょっと星矢、失礼だよ」 頭の後ろで腕を組んで得意げにしている星矢を、瞬がたしなめる。助けてもらったのはお互い様だ。 紫龍が立ち上り、一礼した。 「こちらこそ宿と食事の手配をしていただき、ありがとうございます」 「いえいえ、たいしたもてなしもできませんで」 食堂も壊れてしまったので、星矢たちには出前を取ってもらった。 星矢たちが助けてくれなければ、スバルとギンガ、ヴィヴィオはさらわれていたかもしれないのだ。時間が許すなら、腕によりをかけたごちそうで、感謝の意を示したいくらいだった。 もっとも少年時代を厳しい修行に費やしていた聖闘士たちにしてみれば、充分満足できる食事内容だったのだが。 星矢が、なのはとはやての顔を見た。 「ところでさ、あんたら日本人だろ?」 「そうだよ」 なのはが首肯する。 「やっぱり。名前を聞いた時にピンと来たんだ。じゃあ、俺たちのことを知らないか?」 星矢たちはかつてグラード財団主催の格闘技イベント、ギャラクシアンウォーズに出場したことがある。メディアでも大々的に報道されたので、星矢たちはそれなりに有名人なのだ。 「ごめん。私たち最近ほとんど故郷に帰ってないから」 なのはが気まり悪げに言った。 任務や休暇でたまに帰る日があっても、さすがに流行を追えるほどではない。俳優やスポーツ選手くらいならいいが、いずれ故郷のファッションと致命的なずれが生じないかと、なのはは密かに危惧している。 「君たちは、どうやってミッドチルダに来たの?」 「それは……」 紫龍はゆっくりと事情を語りだした。 時空管理局地上本部襲撃事件より一週間と少し前、ミッドチルダから遠く離れた世界、1980年代後半、地球、ギリシャにて。 アテナの化身、城戸沙織を守ろうとする星矢たち青銅聖闘士と、教皇率いる黄金聖闘士たちが死闘を繰り広げたサガの乱が終わって間もなく、白羊宮の主ムウは十個の黄金聖衣を前にしていた。 「やはり細かい傷がついていますね」 アリエスの黄金聖闘士にして、聖衣修復師でもあるムウは、黄金聖衣を一つずつ確かめていく。 「黄金聖衣に傷をつけるとは、さすがと言うべきでしょうか」 そのままでいいと言われているタウラスの折れた左の角と、戦闘に参加していないアリエスの聖衣は必要ないが、他は修復しなければならない。 サガの乱では五人の黄金聖闘士が命を落とした。 ライブラの童虎は中国の五老峰から動けず、サジタリアスのアイオロスはサガの乱以前に他界し、二人の聖衣はそれぞれの宮に安置されている。現在、聖闘士の総本山、サンクチュアリを守護する黄金聖闘士は五人しかいないのだ。 聖衣修復の材料を取りに、ムウは白羊宮を後にした。 それから数分後、ムウがかすかな異変を察知し、白羊宮に戻った時には、すでに十個の黄金聖衣は影も形もなくなっていた。 「これは……!」 (聞こえるか、ムウ!) ムウにテレパシーで話しかけてくる者があった。 バルゴのシャカの声だ。最も神に近い男と呼ばれ、普段は冷静沈着なシャカが、珍しく焦燥を滲ませている。 (天秤宮と人馬宮に賊が入り、ライブラとサジタリアスの黄金聖衣が盗まれた!) 「馬鹿な。どうやって天秤宮と人馬宮まで」 サンクチュアリは結界に守られており、黄金聖闘士の守護する十二宮を順番に上がっていく以外に道はない。第一の宮である白羊宮はまだしも、奥にある天秤宮と人馬宮に、黄金聖闘士に悟られず侵入できるはずがない。 (気配を辿ってみたが、賊はどうやら次元の向こう側から来たようだ) 最も神に近い男の二つ名は伊達ではなく、シャカは時空や異次元を行き来する力を持つ。さすがに単身で別世界に行くことはできないが、その存在は感じ取っていた。 ムウたちは預かり知らぬことだったが、ナンバーズは空から侵入したのだ。鉄壁の要塞であるサンクチュアリも、空からの侵入には無防備だった。 「アテナよ!」 ムウはサンクチュアリの最奥、アテナ神殿にいる城戸沙織にテレパシーを送る。 (ムウよ。わかっています。黄金聖衣を盗まれたのですね) 凛とした声が応える。沙織もサンクチュアリの異変を感じ取っていた。 「申し訳ありません。このムウ、一生の不覚。かくなる上は、私自らが黄金聖衣奪還を……」 (なりません) 「何故です?」 (これ以上、サンクチュアリの防備を手薄にするわけにはまいりません) 「では……」 (黄金聖衣奪還の任務は、星矢たちに託します) テレポーテーションが使えるムウ、次元移動ができるシャカに、アテナの化身である沙織が力を合わせれば、星矢たちを別世界に送り込むことも可能だろう。 だが、沙織の声にわずかに潜む苦悩の色に、ムウは気がついた。 沙織とて、ようやく傷が癒えたばかりの星矢たちを頼るのは心苦しい。だが、サガの乱を経て、ようやくアテナと認められたばかりの沙織には、他に頼れる者がいないのだ。 こうして星矢たち四名が集められ、ナンバーズを追ってミッドチルダへと送り込まれた。 だが、次元移動の衝撃で、星矢と瞬は地上本部付近に、紫龍と氷河は機動六課近辺へと、別々の場所に転送されてしまったのだ。 「本当ならもう一人、僕の兄さんが来るはずだったんですが……所在がつかめなくて」 紫龍の説明後、瞬が残念そうに付け加えた。 「なるほどな」 はやては平静を装っていたが、内心では頭を抱えていた。 受肉した神が実在し、人間が魔力もなしに音速や光速で技を放ち、挙句に次元移動すら行うなど、どれだけでたらめな世界なのか。聖闘士を実際にこの目で見ていなければ、一笑に付すところだ。 いくつか気になる項目があったので、なのはが調べる為、部屋を出ていく。 その間に、はやてはミッドチルダの説明を始めた。 自分たちが魔道師であること、時空管理局が次元世界の警察のようなものであること、黄金聖衣を盗んだのがスカリエッティ一味であることなどだ。 「魔法か。まさか実在するとはな」 これまで黙っていた氷河がぽつりと言った。だが、生身の人間が飛行する姿を見せられれば、信じるしかなくなる。 「なあ、もしかして修行すれば、俺たちも魔法が使えるようになるのか?」 星矢が期待を込めて訊いた。 「残念やけど、星矢君たちは魔力を持ってへんからな」 「なんだ、コスモとは違うのか」 星矢はがっかりしたようにうなだれた。 「お待たせ」 なのはが戻ってくる。実家に連絡して紫龍の話の裏を取ってもらったのだが、やけに決まり悪そうにしている。おそらく姉の高町美由希あたりに、たまには任務以外で帰ってこいと、小言を言われたのだろう。こういうところは、なのはも普通の女の子だ。 「お姉ちゃんがネットで検索かけてくれたけど、ギャラクシアンウォーズ、聖闘士、グラード財団、どれもヒットはなし。お父さんとお母さんも知らないって」 はやては自分の推測が当たっていたと確信した。 聖闘士たちが来たと言う1980年代後半は、はやてたちが生まれるよりも前の年だ。だが、聖闘士たちが過去から来たわけではない。 いくら人の興味が移ろいやすいものでも、一切の記録が残っていないというのは考えにくい。ならばギャラクシアンウォーズは、はやてたちの世界では起きていないのだ。 「地名、言語、文化、科学技術、歴史、ここまでそっくりなのも珍しいけど、パラレルワールドやな」 次元の海に浮かぶ数多の世界の中には、どういうわけかよく似た世界がいくつか観測されている。特に地球という名前の知的生命体の住む星は多い。 「どういうことだ?」 「つまり、星矢君の世界と、私たちの故郷はまったく別の世界ってこと」 なのはは一応、パラレルワールドについて説明してみたが、生返事しか返ってこなかった。聖闘士たちにとってはどうでもいい話だ。 「そろそろいいだろう」 今度の方針について話し合おうとした矢先、氷河が席を立った。星矢たちも氷河にならう。 「ちょ、ちょっと、どこに行くつもり?」 「黄金聖衣を取り返しに」 氷河が毅然と言った。 「俺たちは、聖闘士について教えて欲しいと頼まれたから残っていただけだ。俺たちも、この世界について少しは知っておきたかったしな。それが果たされた以上、一刻も早く黄金聖衣を取り戻さねばならん」 「当てがあるの?」 「ナンバーズとかいう連中のコスモを探せばいいんだろ。とにかく足で探すさ」 と、星矢。 なのはは絶句した。聖闘士は相手のコスモを感じ取れるらしいが、彼らはミッドチルダ中を走り回るつもりのようだ。本気なのは、気配でわかる。 「いや、でも、勝算は?」 星矢と瞬だって、ナンバーズには苦戦を強いられていた。三倍の数の敵にどう挑むつもりなのか。 「関係ありません。俺たちはアテナの聖闘士として使命を全うするのみ」 紫龍が己の拳を握りしめる。 星矢たちの戦いで、勝算があったことなどほとんどない。格上の白銀聖闘士や黄金聖闘士を相手に、圧倒的劣勢から常に命がけで勝利をつかみ取ってきた。 「でも、敵の半数以上は飛んでるんだよ?」 「跳べばいいだろ」 「跳ぶって……」 飛行に跳躍で挑もうと言うのか。聖闘士の跳躍力なら不可能ではないだろうが、あまりに無謀すぎる。 はやてはぽかんと口を開けた。 「なのはちゃんより無茶な子たち、初めて見たかも」 「八神部隊長も、止めるの手伝って下さい!」 役職名を強調して、なのはが叫ぶ。ただでさえ不利なのに、聖闘士と六課が連携できなければ、勝利は絶望的だ。 はやては自分の考えが甘かったことを悟った。 聖闘士は魔導師とはまったく異なる種類の人間だった。打算や駆け引きとは無縁の、己の信念と正義にのみに生きる闘士たち。個人の強さを追求する聖闘士と、組織としての強さを追求する魔導師たちで、どうやって連携しろというのか。 しかし、このまま行かせるわけにもいかない。 「まあ、少し落ち着いて。スカリエッティのアジトは、時空管理局が捜索しとる。発見を待ってから動いても遅くないと思うけどな」 ナンバーズにコスモに抑えられたら、土地勘がない聖闘士たちは捜索手段がなくなる。 よしんばアジトを発見できなくとも、近いうちにスカリエッティは次の行動を起こすだろう。六課にいた方が、情報は早い。 「けどよ……」 「星矢君たちの、はやる気持ちはわかる。でも、急がば回れ。必勝を期して対策を立てておくのも悪くないと思うんよ」 聖闘士たちは黙って顔を見合わせた。 「ところで、コスモって誰もが持ってるエネルギーやったな?」 「ああ」 「だったら、私の仲間たちに伝授してくれへんかな? 今日の昼には退院する予定やし」 はやてが両手を合わせてお願いする。 「無駄だと思うぜ。俺たちだって、過酷な修行を六年も続けて、ようやく体得できたんだ。そもそも修行についてこられるかどうか」 「それに我らはまだ修行中の身、とても人に教えることは」 「まあまあ、紫龍君。そう難しく考えんと、教えてもらったことを教えてもらえるだけでええから。聖闘士と魔導師、相互理解の一環として。な?」 「はやてさんの言う通り、当てもなく捜し回るよりはいいんじゃないかな? 今回の敵は、僕たちにとって未知の敵なんだし、対策を練るのも悪くないと思うよ」 瞬が、はやてに賛同してくれた。 反論が出ないので、決まりのようだ。 「それじゃあ、先生役、よろしくな」 「……ま、しょうがないか」 星矢は渋々頷いた。 午後二時、退院してきたフェイトたちはトレーニングウェアに着替えると、森の訓練場へとやってきた。出迎えたなのはは、元気そうな仲間たちの姿に、ほっと胸を撫で下ろす。 シグナムは現場検証からまだ戻っていないし、はやては別件で出掛けてしまった。フォワード隊員七名で、準備運動を始める。 「でも、ちょっと面白くないです」 なのはから事の顛末を伝えられたティアナは、憤懣やるかたない様子で言った。 「だって、その言い方じゃあ、まるで魔導師が聖闘士より格下みたいじゃないですか」 機動六課だって血の滲むような訓練を積んできたのだ。やりもしないで、修行についていけないと決めつけないで欲しい。 「なのはさんは悔しくないんですか?」 「百聞は一見にしかず。とりあえずやってみようよ」 なのはがにこにこと笑いながら、ティアナを諭す。 これまでの訓練の発案者であるなのはが、怒るどころか相手を受け入れようとしている。 スバルはなのはの度量の広さに少し感動していた。 「ほら、なのはさんもこう言ってるんだし……?」 スバルが振り向くと、ティアナがいなくなっていた。視線をさまよわせると、ティアナは準備運動をしながら、少しずつ遠くへと離れて行っていた。 「何してるの?」 「あんた、まだ気づかないの?」 追いついて話しかけると、逆に憐れむように言われた。 「なのはさんの表情、さっきからまったく変わってないのよ」 スバルははっとして、なのはを振り返る。にこにこと無言で腕の筋を伸ばしている。いくらなのはが明るい性格でも、さすがにストレッチをやりながら笑顔になる理由はない。 深く静かに怒っているようだ。そのことに気がつくと、妙な威圧感がなのはの周囲に漂っているのがわかる。 「おっ、揃ったみたいだな」 聖衣を装着した聖闘士たちが姿を現す。 星矢はフォワード隊員たちを見渡すと、ヴィータに向かって笑いかけた。 「お嬢ちゃんは見学かな? 誰かの妹とか?」 「子供扱いすんじゃねぇ! 私はヴィータ、スターズ分隊の副隊長だ!」 「副隊長? お嬢ちゃんが?」 ヴィータが吠えると、星矢たちが目を丸くした。 ヴィータは厳密には人間ではなく魔法生命体で、年も取らない。だが、魔法を知らない相手に、守護騎士システムをどう説明してものかと、ヴィータは頭を悩ませた。 「あっ、わかった」 星矢がポンと手を叩いた。 「さてはあんた、魔法で若返ってるんだろう」 的外れな答えが返ってくる。そんな魔法は存在しない。 「…………もう、それでいいや」 説明が面倒くさくなり、ヴィータは投げ槍に言った。 「やっぱりそうか。魔法ってすごいんだな」 星矢は興味津々でヴィータを眺める。 「で、本当はいくつなんだ?」 ヴィータは星矢のすねを思いっきり蹴飛ばしてやった。 「えー。では、これより君たちに聖闘士の修行を体験してもらう」 各々自己紹介を済ませた後、整列した六課隊員を前に、星矢が両手を後ろに回して、胸を少しそらしながら言った。渋っていたはずなのに、ノリノリで先生役をやっている。 星矢の話は棒読みになったり、言葉がつかえて出て来なかったり、誰かの受け売りなのがバレバレだ。なまじ得意げにしているだけに、余計に滑稽な印象を与える。他の聖闘士たちも呆れたように星矢を見ていた。 (……なんだか、懐かしいね、ヴィータちゃん) (いや、私らはあんなに調子に乗ってなかっただろ) 先生役を務める星矢の姿が、教官資格を取ろうとしていた過去の自分の姿と重なり、なのはとヴィータは少しだけ和んだ。初めて教官役をやらされた時は、星矢と大して変わらない拙さだった。 星矢の話は要約すると二つだった。 一つ目は、己の肉体を極限まで鍛え、力と意志を一点に集中させることで原子を砕く“破壊の究極”を会得していること。二つ目は、体内のコスモを爆発させることで、聖闘士は超人的なパワーを生み出すということだった。 なのはたちは揃って疑問符を浮かべた。原子を砕くことが破壊の究極という理屈はわかるのだが、己の中の小宇宙だの観念的な話はさっぱりわからない。ためしに、体内に意識を凝らしてみたが、コスモの片鱗も感じられない。 まあ、そんな簡単に会得できるものでもないのだろうが。 「じゃあ、まずは体を鍛えるところから」 星矢の宣言に、なのはたちは気を引き締めた。 コスモが会得できるかどうかは別として、魔導師の矜持に賭けて修行について行ってみせるというのが、フォワード隊員の共通した意気込みだった。 星矢は傍らにある岩の上に手を置いた。星矢の体重の三倍はありそうな巨岩だ。 「この岩を体に括りつけて、逆さ吊りの体勢から、腹筋五百回やってみようか」 「「「無理です」」」 なのはたちの返事が綺麗に唱和した。 目次へ 次へ
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夜にupしたのに人気(コメント)が全くない… 「転入生の紅蛇蓮華よ。学級委員の永江依玖、いろいろ案内してあげて。」 「はい。」 何か変な衣を着ている人が立った… 「永江依玖です。よろしくお願いします。」 学級委員にはやはり依玖のような人がいいね。 -一組- (窓から覗いてる) 「というわけでみんな、二学期もよろしくね。」 (何か普通だな…) 「ところで誰か血をくれない?」 一組担任はレミリア、副担任、学級委員は未公表。 -二組- 「もうどうでもいいじゃない?藍もいないしね。」 「幽々子様、ちゃんとしてください絵文字」 (変な人…) 二組担任は幽々子、副担任は藍、学級委員は妖夢。 -四組- (何か暗いわね…) 「さあ、神奈子様と諏訪子様を崇めるのです!」 「ああ~」「うう~」 (何かやってるー!もはや理解できない!) 四組担任は八坂神奈子、副担任は守矢諏訪子、学級委員は東風谷早苗。 -五組- 「…」 「…」 (暗い…あの担任のような鬼は止めないのかな…) 五組担任は星熊勇儀、副担任は未公表、学級委員は古明寺さとり。 -六組- 「なので…」 (よりによって四季教頭のクラスか…長そう…)六組担任は四季教頭、副担任は風見幽香、学級委員は小野塚小町。 -七組- 「はい、じゃあおしまい。」 「起立!気をつけ!礼!」 (ここは普通のクラスみたいね。) 七組担任は聖白蓮、副担任、学級委員は未公表。 うー、今回は人気ないな… 合計: - 今日: - 昨日: - 名前 コメント